岡崎律子通信
Sincerely yours, Vol.2
1994 summer
 9月の最初の日曜日、私は生まれて初めて財布を落としてしまいました。その日、小さなお礼をしたいことがあって、相手の人とケーキを食べて、おしゃべりをして、レジへ行って初めて気づきました。ここのところ、少し暗かったので、まさにこれは、泣きっ面に蜂。「じゃあ、これで悪いツキも落としたと思えばいいじゃない」となぐさめられ、気持ちをおさめた私。でも、たぶん、向こう一ヶ月くらいは思い出して気に病むでしょう。だって、これは、はけ口のない悲しみです。くやしい。自分の不注意が。
 最近、テレビをよく見ているように思います。今期のドラマの中では、私は「お金がない!」と「君といた夏」が好きで、欠かさず見てきました。それに、「グッドモーニング」の風間杜夫の、あの、悩みのない、超希望的観測をする、心の持ち様を、大笑いしながらもひそかに「いいな」と思ったり。なぜ、そんなにいろいろと見ていたかというと、時間があったので……。あまりヒマなのもよくないと思う…… とかく「考え」にとらわれていた夏でした。


 以心伝心というのを、どう思いますか? あらためて辞書を引いてみると、「言葉によらずに、互いの心から心に伝えること。言葉にできない深遠、微妙な事柄を。」とあって、ウーン、と考えてしまいました。これをするのはとてもむずかしい、と思って。
 何年も前の私は、かなりこれを信じていて「言わなくてもわかるでしょ」とか、「お互いの気持ちを察することがステキなんだ」などと思っていました。でも、ある時、言葉にしないとやっぱり気持ちは伝わらない、と思い知った事件があって、それからは、思ったことは、なるべく口にしようと決めて、だんだんそうなりました。
 あやまりたくても、もう許しているって言いたくても、もう会わなくなった人には伝えることはできない。どんなに愛しているか、いとおしく思っているか、も口にしなかったら、その間に相手はもしかしたら、不安で胸をいっぱいにしているかもしれない。だから、別になにもケチることはないのだし、胸の内の「いいこと」は、照れずに、のみこんでしまわずに、ちゃんと“その時”に伝えたらいいのだろうなあと、今はすごく、そう思います。


 9月16日、私はシングル「長距離電話」が発売になり、その前後はラジオなどの機会も多少ふえるので、これをきっかけに、気持ちを外に向けて元気にいきたいです。そして、財布を落とすという不幸にも負けない、強い心になりたい。あなたも秋のお楽しみを、胸いっぱい満喫して下さいね。 Ritsuko Okazaki









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